13.
岩手 気仙地方
Iwate Kesen
岩手の南東に位置する、陸前高田市・大船渡市・住田町をひっくるめたエリアは、
このあたりで「気仙(けせん)地方」と呼ばれています。
よく宮城県の「気仙沼市」と間違えられるのですが、それもそのはず。
気仙沼と陸前高田はおとなりの町どうし。
方言などの文化圏が近いのは、藩政時代に同じ「伊達藩」でもあったからです。
私はこの岩手県・気仙エリアの地域新聞「東海新報」の記者をしています。
前回のご案内を担当された大内さんやMi amas TOHOKUの皆さんとは、
取材を通じて知り合いました。
生まれ育ったのは大船渡。そして今は仕事で毎日、陸前高田を歩いています。
陸前高田は、岩手で最も震災被害の甚大だった地域です。
津波によって被った痛手はあまりに大きく、市街地であったところを歩けば、
文字通り「すべてを失った」と痛感させられます。
かつての町を知らぬ人が見ても、そこに町があったと思い描くことはきっと難しいでしょう。
更地となった大地にはしろつめくさが、
積み上げられた土砂の上には菜の花が根づき……
その〝いびつな美しさ〟をまのあたりにすると
「自然を前にしたとき、人はなんと無力なのだろう」
と改めて思い至り、言葉を失ってしまうこともあります。
しかしこれほどの被害を受けていても、
私はこの地域の持つたくましさや、
ありのままの風景にずっと魅了され続けています。
少し歩を進めてみましょう。
5月。桜がすでに散ったあと、陸前高田の米崎町(よねさきちょう)一帯は白や桃色の花で覆われていきます。
その正体は、りんごの花です。
米崎はりんごの生産が盛んな町。
「日本一の生産地」として知られる青森のりんごを出し抜いて、私はこの米崎りんごが「世界一おいしい果物」だと信じています。
さらに、震災後にできた同町のカフェ「ハイカラごはん職人工房」では、米崎りんごを使ったビール「りんごエール」が飲めるんですよ。
こっくりと深い「あかがね色」をしたりんごエールは、
旅先での乾杯にもぴったりの美しいのみものです。
さあ、のどが潤ったら小友町(おともちょう)へと移動しましょう。
おなかもすいてきましたね。
小友の「かき小屋 広田湾」へご案内します。
津波は町の基幹産業である水産、特に養殖漁業にも大きな爪痕を残しました。
今季収穫されているカキやホタテは、漁家の方たちが震災後に一生懸命育ててきたものなのです。
かき小屋では陸前高田の広田湾内で獲れたカキがふんだんに味わえます。
生ガキ、蒸しガキ、カキごはんにカキフライ、カキのグラタン、パスタ…メニューが豊富なので、
自分にぴったりの食べ方が見つかると思います。
その大きさ、芳醇な味わいに、きっと目をみはりますよ。
お店は要予約なのでお気をつけくださいね。
菜の花の丘を通り過ぎ、
「半島エリア」の広田町へと向かいます。
広田は陸前高田の中でも独特の風景と出合える場所です。
何より特徴的なのは、海の青さ。
緑青(りょくしょう)の絵の具を溶かしたような、鮮やかな色が目にもまぶしいです。
海と田んぼが一体となっているような景色もおもしろいでしょう?
太平洋を一望できる「黒崎温泉」もあります。歩き疲れたらお風呂へどうぞ。
おや、そろそろお茶の時間ですね。
森の奥にある隠れ家的カフェ「森の小舎(こや)」へ行きましょう。
ここにはメニューというものがありません。
「入舎料」800円を支払い、まずはDIYガーデンを散策してみてください。
オーナーがこつこつ作り上げたさまざまなしつらえがあちこちにあります。
木漏れ日の下のベンチに腰かければ、
おいしい珈琲か紅茶、そしてオーナーが全国からお取り寄せしたお菓子がいただけます。
お弁当などの持ち込みもOK。海岸へと降りて行く小径もありますよ。
こんなふうに私は、地元の人からも「知らなかった!「ここどこなの?」
と言われる場所を見つけるのが好きです。
この地域で生まれ育っていても、いまだに新しい発見があります。
ここで暮らしていくことは、毎日が〝宝探し〟なのです。
「水と空との連なれる」……
大津波によって全壊した県立高田高校の校歌は、こんな一節から始まります。
私たちはまさに、海と川と、空とが連なる
素敵な場所に暮らしていることを自慢に思っています。
その〝自慢〟をたくさんの人に知らせて回りたいほどに。
海はときとして、とても恐ろしいものではあります。
けれども、毎日こうして朝日を連れてきてくれるから
嫌うことなどできるはずもなく、
「ともに生きていくしかないものなあ」と
どこかきっぱりと思うのです。
海の恩恵を受け、ここで生きていく決意した人々に、ぜひ会いにいらしてください。
きっとこの気仙地方の「光」を観ていただけると思います。
さあ、次回からはいよいよ秋田県へ。
私も何度か訪れたことのある秋田は、
風と水と、緑の美しい場所という印象が深いです。
お次の方々は秋田のどんな〝宝物〟を発見したのでしょう。
かの地の光を観せてもらえるのが、今からとても楽しみです。
鈴木英里/「東海新報」記者
︎14. 秋田 AKITA