05.
青森 八甲田山 
Aomori Hakkoda



こんにちは。
私は今、十和田に住んでいます。
約2年前に12年ぶりに十和田に戻りました。
思い浮かぶのは他の街での思い出ばかりで、この土地にしっくり馴染めてないような
気がしていましたが、ひさえさんの十和田湖を読んで「私のふるさと」を感じました。

さて5日目は、その十和田湖の脇にそびえる八甲田山をご紹介します。
あの日から、もうすぐ3年。
それを思い出すたびに、刹那でも人生一番の幸せと、その後の絶望を想います。
個人的で恥ずかしいのですが、八甲田山での思い出を綴ります。

・・・

2011年3月11日
私は東京で暮らしていて、職場で強い揺れを経験した。
年始に結婚が決まり、春から弘前で始まる新しい生活を想像し、
人生のなかで一番きらめいていた。

青森で桜の咲く5月、愛する人のもとへ。

幸せは短かった。
心のバランスを崩した。
療養する為、実家の十和田に戻り、離婚。
絶望と喪失。

ある日、友人のTさんが八甲田山荘で行うイベントで来るというので、
なんだか無性に会いたくなった。
Tさんは、東京時代いつも楽しい時間の流れる場所にいた人。
久しぶりのTさんは、相変わらず陽気な笑顔。
「ここのパンおいしいよ」
八甲田山荘の自家製パン。素朴で優しい味がした。
元気のない私に、ロープウェーのチケットをくれた。
「バカヤローって叫んできなよ、すっきりするかもしれないから」

ロープウェーで登った山頂はとても見晴らしがよく、青森市が見渡せる。
木々が美しく逞しく生えている。
そして、街の人々の生活。
「バカヤロー」は言えなかった。

そのころ、真夜中に山から降りられなかったアクシデントの経験がある。
大きな木々、風の音、土や木の香り、冷たい空気、獣の音。
自然にとって私は、侵入者。
とてつもなく大きな自然に、飲み込まれそう。
夜の暗さがこんなに深淵とは。
私は、ホイットマンの「獣たち」という詩を壊れた車内で思い出していた。
「強くなりたい」
寂しさのなかで、夜が明ける瞬間の美しさを知った。

あれから3年が経つ。
悲しみはポケットに入れた石ころのように、ふと手を突っ込むと、やっぱりそこにある。
忘れることはできないものだ。
それでも、少し光が射してきた。
東京を離れるときに目指していた夢が形を変え、今、やりたい事があってうずうずしている。
スペイン語esperanza「希望」は「待つ」という言葉に繋がる。
希望を待つ。急がない。焦らない。
雪が解け山道が開通したら、もう一度八甲田山にいきたい。
今度こそ「バカヤロー」と叫んでみよう。

短い大失恋の物語。
おわり。

・・・

八甲田山が緑に覆われる季節、青森と十和田を結ぶ田代平40号線をドライブ。
ブナの木漏れ陽が降り注ぐ場所がある。

ああ
一ばん ふるいものばかりが
どおして いつもこんなに
一ばん あらたしいのだろう

まどみちおさんの詩、まったくだ。

・・・

いつかもし青森にいらした際には、自然を感じてください。
大きさ、逞しさ、強さ、美しさ、優しさ…
きっと、そのときのあなたの心に寄り添ってくれると思います。



山端幸子(青森在住)

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